導入
冬の朝、血圧が高めに出る——そんな経験はありませんか。寒くなる季節には、私の薬局でも「血圧が上がってきた」と毎年、相談を受けます。朝は心血管イベントの多い時間帯で、過度な「血圧サージ(起床時の急上昇)」は脳卒中リスクと関連します。本記事では、忙しい40代でも続けやすい「起床後1時間ルーティン」で、冬の朝高血圧に備える方法を解説します。60代、70代と健康で過ごすためにもぜひ実践してください。
本記事でわかること:①朝の血圧サージが起こる理由 ②起床1時間の実践手順 ③冬特有のリスク(入浴・気温差)への安全対策
朝の上腕式ホーム血圧で高めになりがちな方/冬に頭痛・動悸・だるさを感じやすい方/入浴前後の寒暖差が気になる方
なぜ起こる?
冬は気温低下で交感神経が高まり、血管が収縮して血圧が上がりやすくなります。日本の大規模データでは、冬と夏の朝の収縮期血圧差は男性で約6.2 mmHg、女性で約7.3 mmHgと報告されています(季節差)。また、起床後の血圧急上昇(血圧サージ)が大きい高齢高血圧者では、約41か月の追跡で脳卒中発症が19% vs 7.3%(絶対差11.7%)、相対リスク2.7倍でした(対象は高齢者)。
・外気/室温の低下→血管収縮↑(交感神経活性化)
・朝の覚醒時反応→コルチゾール↑・心拍↑
・生活要因→活動量↓・塩分過多になりやすい
体の中で何が?
冷刺激は交感神経系とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を刺激し、末梢血管抵抗が上昇します(血圧=心拍出量×末梢抵抗)。起床時は自律神経の覚醒反応で同様の変化が重なり、血圧サージが起こりやすくなります。
今日からできる工夫(起床1時間ルーティン)
基本原則:「測る(可視化)」「温める(環境)」「整える(からだ)」を、起床後60分以内に習慣化します。
- 0–5分|ゆっくり起きて深呼吸:ベッドで体を丸めてから側臥位→端座位へ。鼻から4秒吸って6秒吐くを1–2分。
- 5–10分|トイレ→ホーム血圧を測定:起床1時間以内・排尿後・服薬前・朝食前に、座位で1分安静→1回測定(余力があれば2回平均)。まずは朝のみ・週3日から始める。
- 10–20分|温める:寝室・脱衣所を19–22 ℃目安に。靴下・腹部を暖かく。寒い脱衣所/浴室は20 ℃以上を推奨。
- 20–35分|軽い動き:首肩回し、下肢ストレッチ、5–10分の屋内ウォーク(息が弾む程度)。
- 35–50分|朝食と水分:温かい飲み物+たんぱく質・野菜を中心に。塩分は控えめ(みそ汁は薄味)。
- 50–60分|予定確認と服薬:医師指示通り。自己判断で服薬時刻を変えないこと。
・ 朝は上腕式で1回(余力があれば2回平均)、まずは週3日から
・ 起床後はまず室温と足元を温める(19–22 ℃)
・ 計測前30分は喫煙・激しい運動・大量カフェインを避ける
・ 朝食は薄味+野菜/果物(カリウム源)を添える
・ 便意は我慢せず、いきみを避ける(トイレも寒暖差対策)
・ 入浴は食後すぐ/飲酒時を避け、脱衣所・浴室を20 ℃以上に
・ 週150分の中強度運動をベースに、冬もこまめに体を動かす
血圧記録は日付・時刻・脈拍まで残す。単発の高値で慌てず、平均で判断(医療者と共有)。
よくある勘違いと注意点
- ×「朝コーヒー直後に測って高かった=高血圧」→○計測は飲食・運動の影響が少ない条件で。記録は「状況メモ」を残す。
- ×「寒い浴室でも短時間なら大丈夫」→○脱衣所/浴室は20 ℃以上へ。暖房で先に温め、急な温冷刺激を避ける。
- 持病のある方へ:心不全・腎不全では急な水分負荷や過度な長風呂は避け、塩分・体重変化を毎朝チェック。自己判断で利尿薬や服薬時刻を変えない。
まとめ(要点+行動喚起)
- 冬は朝の血圧が上がりやすく、起床時サージが大きい人では脳卒中リスクが高まる。
- 起床1時間の「測る・温める・整える」ルーティンで、条件を揃えた記録と環境調整を習慣化。
- 脱衣所/浴室は20 ℃以上・入浴前後の寒暖差対策を徹底し、安全第一。
Q&A
Q1. どの血圧値から受診すべき?
目安として、繰り返しのホーム血圧で朝平均135/85 mmHg以上が続く、あるいは180/120 mmHg前後の高値や症状(胸痛・息切れ・麻痺など)がある場合は早めに受診を。個別判断は主治医と。
Q2. 入浴は朝より夜が安全?
個人差はありますが、冬の朝は室温が低く危険。時間帯よりも脱衣所/浴室の20 ℃以上・飲酒後を避ける・長湯しない等の環境調整が優先。
Q3. スマートウォッチの血圧機能で代用できる?
医療機器でない機能は参考値に留め、上腕式の家庭用血圧計で測定・記録することを推奨。
関連記事リンク: [内部リンク: 減塩の基本|外食・コンビニの選び方]/[内部リンク: 上腕式ホーム血圧の正しい測り方]
参考文献
- Kario K. et al., 2003, Morning surge in blood pressure as a predictor of silent and clinical cerebrovascular disease in elderly hypertensives, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12642361/(高サージ群19% vs 7.3%、RR=2.7 を報告).
- Imai Y. et al., 2003, Japanese Society of Hypertension guidelines for self-monitoring of blood pressure at home, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14621179/(「起床1時間以内・排尿後・服薬前・朝食前に測定」などの手順).
- Niiranen T.J. et al., 2011, Optimal Schedule for Home Blood Pressure Measurement, https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/hypertensionaha.110.162123(朝夕各2回×3–7日が望ましい).
- Iwahori T. et al., 2018, Seasonal variation in home blood pressure, https://bmjopen.bmj.com/content/8/1/e017351(冬–夏差:朝SBPで約6–7 mmHg)。
- Tochihara Y., 2022, A review of Japanese-style bathing: its demerits and merits, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35168673/(脱衣所/浴室は20 ℃以上を推奨・冬季の入浴関連死亡の多さ)。
[注意]本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く・急激に悪化する場合は医療機関を受診してください。効果には個人差があります。[/注意]


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